人事労務Q&A(その2)
(質問)
従業員が帰宅する際、電車の中で乗客同士の喧嘩の仲裁にはいり、顔を殴られ鼻を骨折してしまいました。2週間療養の為、会社を欠勤しましたが、労災保険の対象になるのでしょうか。
(回答)
労災保険(正式には「労働者災害補償保険法」といいます。)の保険給付の対象となる災害とは、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡」をいいます。ご質問のような帰宅途中の災害の場合、まずは「通勤災害」の要件に該当するか否かがポイントになりますが、通勤途上の災害全てが労災保険の対象になる訳ではありません。
1.通勤による災害とは
労災保険の対象になる「通勤」とは、「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くもの」とされています。一般的には(1)住居と就業の場所との間の往復、(2)(複数就業者の場合)就業の場所から他の就業の場所への移動、(3)(単身赴任者の場合)単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動等が考えられます。(※(2)、(3)の場合一定の要件があります)
次に、労災保険の対象となる「通勤による災害」とは、前述した「通勤」の要件を満たし、かつ、通勤とその災害との間に相当な因果関係がある場合をいい、これは、通勤に通常伴う危険が具体化した場合をいいます。通勤災害として認められた具体例には、例えば、最寄り駅まで自転車で走行中にトラックにはねられ死亡、駅の階段から落ちて足を負傷、帰宅途中に引ったくりに遭い、転倒し負傷等のような事例があります。
2.喧嘩の仲裁で負傷、通勤災害とは認められない可能性が高い。
前述したとおり、通勤途上の災害全てが労災保険の対象になる訳ではありません。自殺その他被災労働者の故意によって生じた災害や通勤の途中で怨恨をもって喧嘩をした場合には、私怨として原則として「通勤による災害」とは認められません。
今回のご質問の場合、ケガをしたときの状況等(ケガをした際の時間、場所、通常の帰宅経路であったのか、寄り道はしていないのか、顔を殴った相手とのやり取り、その者の氏名住所等・・)を詳細に従業員の方に確認する必要がありますが、「通勤⇒他人の喧嘩⇒自ら仲裁⇒負傷」の関係を考えた場合、通勤に通常伴う危険が具体化して生じた災害ではない(通勤していることが原因となって災害が発生したものではない、普通に通勤していて顔を殴られることがあるのか、自ら喧嘩の仲裁に入った)として通勤災害とは認められない可能性が高いです。その場合、原則として、治療費、欠勤時の賃金の補償等、健康保険に請求することになります。ただし、健康保険に請求する場合においても、同様の確認が必要となります。仮にその顔を殴られた従業員があくまでも労災保険の通勤災害として申請して欲しいと会社に申出た場合、今回の事故は「第三者行為災害」となります。「第三者行為災害」とは、労災保険給付の原因である災害が第三者(政府、事業主、ケガをした従業員以外の者)の行為によって生じたものであって、ケガをした従業員に対して、その第三者が本来、損害賠償の義務を有しているものをいいます(健康保険においても同様)。労災事故の対象になるか否かは、最終的には、管轄の労働基準監督署に一連の労災保険申請書類を提出後、労働基準監督署の審査を受けた後、判断されることになります。会社としてはケガをしたときの詳細な状況を従業員の方に確認し、事前に管轄の労働基準監督署に相談の上、今後の対応を検討してみてはいかがでしょうか。
特定社会保険労務士 原田 幸治